UTILIZATION GUIDE

不動産活用ガイド

不動産でできる節税対策はいろいろある

 相続税がかかる方の多くは、現金よりも不動産を多く所有されているのが現状でしょう。不動産をいくつも所有している場合では、評価も大きく、千万単位、億単位で相続税が課税されます。そうなると、「不動産」を所有していることが課題になるということです。

  • 不動産があるから相続税がかかり、納税が難しい。
  • 不動産は個々に違い、評価が難しい。
  • 不動産があると分けにくく、もめてしまう。などなど。

 このように、財産の大半を占めるのが「不動産」ですので、相続になると「不動産」の知識がないと節税もできずに、トラブルのもとを作ることになりかねません。しかし、考えようによっては、「不動産」を活かすことで、節税でき、相続を乗り切ることができ、財産を継承させる価値を生むことができる、とも言えるのです。
 「不動産」の大きなポイントは「利用の仕方で評価が変わる」ということです。額面どおりの評価になる「現金」とは違う特徴がありますので、その特徴を対策に活かすようにすれば、評価がさがりますので、節税を創り出すことができます。
 そのためには、生きているうちに、「不動産」の評価の仕方を利用した対策を実行しなければなりません。選択肢はいくつもありますので、財産の内容や家族の状況などによって、適切な方法を選択して、早めに計画的な相続対策をしておきましょう。
 対策は1つでよいとは限らず、いくつかを組み合わせる場合もあります。どの程度の節税が必要なのか、どの「不動産」を対策用に使うのかは、お一人おひとりの財産の内容や家族の商況によって、全部違うと言えます。対策にかける時間や本人の状況や考え、家族の考えによっても変わってくるかも知れません。
 いずれにしても、財産の中に「不動産」が多くある場合や相続税がかかるほどの「現金」がある場合は、「不動産」を活用することで相続税が節税できます。

 「不動産」を活用してできる節税対策を次の7つに分けて説明します。

  • 1【贈与】自宅を配偶者に贈与する・・・2000万円まで無税
  • 2【贈与】不動産を子供に贈与する
  • 3【建物】現金を建物に替える
  • 4【購入】現金で不動産を購入する
  • 5【組替】土地を売却、賃貸不動産に買い替える
  • 6【活用】土地に賃貸住宅を建てて賃貸事業をする
  • 7【法人】賃貸経営の会社をつくって資産増を回避する

1【贈与】自宅を配偶者に贈与して節税する

◇配偶者の贈与の特例を利用して無理なく節税する
 財産を所有するのは夫だけで、妻はいわゆる「専業主婦」の立場で家庭で夫や子供を支えてきたというご家庭は多いことでしょう。そうした妻の貢献があればこそ、夫は仕事に専念でき、財産を形成できたわけです。よって、相続になれば、配偶者の権利は保護されており、財産の半分の権利があります。
 生前にも贈与の特例があり、婚姻20年以上の妻に居住用の不動産を贈与しても2000万円までは贈与税がかかりません。通常の贈与を組み合わせると2110万円までは贈与税がかからずに、妻は自宅である財産を受け取ることができます。

 これは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。

特例を受けるための適用要件
  • (1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
  • (2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
  • (3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
  • (注) 配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

◇一番手軽に節税でき、相続税の対象外で確実

 相続開始前3年以内に贈与された財産は、みなし相続財産として相続税を課税されますが、この配偶者控除を受けた場合だとみなし相続財産とはならず、除外されます。
登記や取得税がかかりますが、なんら形は変わらずとも、贈与契約や名義変更の手続きをするだけで、一番手軽で確実に節税できることです。
 贈与する土地と建物が2,110万円を超える場合は、評価に応じて持分を贈与するようにします。たとえば5000万円の自宅であれば5分の2を妻名義にし、残る5分の3が夫となります。
 そのようにして夫と妻の共有名義にしておくことで、将来、自宅を売却する場合、各人に3000万円の特別控除が受けられますので、2人分を合わせて6,000万円の特別控除が認められることになり、譲渡税も節税できるようになります。

2【贈与】不動産を贈与して節税する

◇現金よりも土地で贈与する方が有利

 現金の贈与は一般的に節税対策として多くの方が実行されていることでしょう。贈与税の基礎控除は年間110万円ですので、毎年、基礎控除の範囲内で少しずつ贈与を続けている方が多いのではないでしょうか。しかし、贈与は方法を間違うと、相続のときには税務調査の対象となり、結局、否認されて相続財産になるかもしれません。
 しかも、現金などの金融資産は額面どおりの時価で評価されます。100万円の現金は、現在も将来も100万円の価値だということです。大きな額の贈与をすると贈与税が課税される上、税務調査の可能性もあり、現金の贈与にはリスクもともないます。
 しかし、不動産の場合は、少し事情が違います。なぜなら不動産は時価よりも低い路線価や固定資産税評価で評価されますので、より多くの価値分を贈与できるということです。
 たとえば、都市部の場合、現在の地価は下落しており、将来上昇に転じることもあります。そうすると評価の低いときに贈与してもらうほうがよいと言えます。賃貸物件なら、贈与後の家賃収入も自分のものになり、節税効果と利用価値は大きいと言えます。

◇住宅資金の贈与よりも住宅をもらったほうが得

 相続税法上の建物の時価は固定資産税評価額、土地は路線価で決まるので、例えば、市場での時価が1億円の都心の土地と建物が、評価額は半分以下ということが普通にあります。
 そのため、住宅購入資金として現金を生前贈与してもらうより、親が住宅を購入し、それを贈与してもらったほうが節税になります。

◇相続時精算課税制度を節税対策とするには

 相続時精算課税制度では、相続財産と合算する贈与財産(相続時精算課税適用財産)の価額は、贈与時の価額で計算されるため、相続時に実際にその財産の価額が上がっていれば、結果的に節税となります。贈与財産が「贈与時の価額」と「相続時の価額」が一緒であるならば、基本的には相続税の節税にならないということになります。
 しかし、贈与財産の「贈与時の価額」と「相続時の価額」が一緒である場合でも、収益物件を贈与するならば、相続税の節税となります。
 例えば、親が賃貸アパートを持っているとすると、そこから入る家賃収入は親のものであるため、必要経費や所得税などを差し引いた残りは、当然親の財産となり、結果的に相続財産となってしまいます。けれども、賃貸アパートを贈与すれば、その後の家賃収入は子供のものとなるため、相続財産の増加を防ぐことになります。また、子どもは相続税納税資金として蓄えることができます。なお、所得の分散効果があるため、子どもより親のほうがはるかに所得があるならば、親・子ともに所得税が減ることになります。

3【建物】現金を建物に替えると節税になる(資産の組み替え)

◇建物は固定資産税評価額となり半分以下の評価になる

建物は、相続の時には実際にかかった建築費用ではなく、固定資産税評価額で評価をされます。固定資産税評価額とは、市町村の税務課(東京都23区では都税事務所)にある固定資産課税台帳に登録してある土地や建物の評価額のことです。固定資産税評価額は、次のような税金を計算するときに使います。

  • (a) 固定資産税や都市計画税の税額
  • (b) 不動産取得税や登録免許税の税額
  • (c) 相続税や贈与税を計算するときの土地や建物の評価額

固定資産税評価額は国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて市町村が決定します。一般的には、評価額は土地については時価の60~70%(公示価格の70%)、建物については建築費の50~70%ぐらいだとされていますが、現実の評価はこの割合以下のことが多く、建築費の半分以下になることもあります。

◇建物は「親の現金」「親名義で建てる」ことが節税になる

自宅を建てる場合に、誰の名義にすればいいかというご相談を多くの方から頂きます。

住む方の状況にもよりますが、相続税の節税という点から考えると、「親の現金」を使い、「親名義で建てる」ことが一番の節税効果となります。
二世帯住宅を建てる際など、ローンは子どもの方が借りやすいからなどという理由で、親の土地に、子ども名義の家を建ててしまうと、土地は使用貸借となり、評価が下がりませんので、親の節税になりません。親の現金を使うことに抵抗があること場合もあるでしょうが、節税対策という点では、現金の余裕がある場合は、建物代金に使うことで節税になります。

◇賃貸住宅に使うとさらに評価は70%になる

 建物を賃貸していれば、貸家となり、借家人が存在する場合の家屋の評価額は、賃借人に一定の権利があるものと考えられ、借家権割合30%を引くようにします。そのため、固定資産税評価額の70%として評価されることになります。
 よって、現金の余裕がある場合は、賃貸住宅の建築代金につき、借入ではなく現金で支払うようにすれば、固定資産税評価となり、さらに貸家評価になりますので、建築代金の半分以下の評価に変わり、大きな節税となります。

4【購入】資産は多額の現金より不動産で持つ(資産の組み換え)

◇現金より不動産で持つほうが節税には有利

 最近では、「相続税の税務調査は預金調査」と言われており、亡くなった人の預金から家族の口座に資金移動された形跡があると、配偶者、子ども、孫など、家族の預金も全部調べられてしまうようです。預金では評価を減らすことはできませんし、隠すこともできません。むしろ、まとまった額を預金でおいておくことは不安でリスクがあるということになります。
 では、現金についてはどうすれば節税になり、財産を残すことができるのでしょうか?
その答えのひとつとして、「賃貸不動産を購入すること」が節税するには、効果的な方法です。現金を不動産に替えることによって評価が下がるからです。

◇路線価は時価の80%程度とされている

 不動産は時価より2~3割程度評価が下がります。賃貸用の建物は、評価額は建築価額の3~4割程度になり、ともに不動産になると評価は下がります。
一般的に土地の評価額の関係は大都市ほど以下のように調整されています

  • 公示価格     100%(時価相当額、売買されている指標数字)
  • 路線価      80%(相続税評価額、相続贈与の財産評価の価額)
  • 固定資産税評価額 70%(市役所が固定資産税課税するために評価する価額)

◇現金1億円で賃貸マンションを購入すると評価は半分以下になる

 建物5000万土地5000万計1億円でマンションを購入し、賃貸した場合の相続税評価額は以下のようになります

  • (1)建物の評価額 購入価額の30%の固定資産税評価額になる
     5000万×30%=1500万
     賃貸すると『貸家』となって借家権割合が控除出来るので 1500万×70%=1050万
  • (2)土地の評価額 購入価格の80% 5000万×80%=4000万
     さらに賃貸すると『貸家建付地』となって借地権割合×借家権割合が控除できるので
     4000万×(1-(0.6×0.3))=3280万 
  • (3)建物と土地の相続税評価額(1)1050万+(2)3280万=4330万
     物件購入代金で現金が1億円減少します。相続財産も1億円減少します。増える建物と土地の相続財産は4330万です。差し引き5670万円が節税できたことになります。

5【資産組換】相続した土地を守るより価値を上げて残す (不動産の買い替え)

◇数よりも質、収益があがる不動産が財産となる

 残念ながら、現在では、土地を持っているだけで財産になる時代ではなくなったと言えます。持っているだけでその土地からの収益がなければ、固定資産税や維持費がかかるばかりで持ち出しとなり、資産とは言えない状態です。駐車場にして貸していると言っても相続税の節税効果はありません。
 今までは多くの土地を所有することが資産家の証であり、財産でしたが、固定資産税や維持費を考えると、これからは、収益力のある土地が財産であり、収益力がない土地は不良資産となりかねません。
 こうしたことから、土地は、数よりも質にこだわって、選別していく時代になったと発想を変えることが必要でしょう。

◇土地を減らして建物に換える

 多くの土地や大きな土地を所有する場合、そのままでは節税対策はできません。土地の一部は売却して、売却代金で建物を建てたり、賃貸マンションを購入したりし、収益を上げられる不動産に組み換えていくことで節税になるのです。

◇不良資産から優良資産への転換

 いままでの節税対策の主流となっていたのは、所有地に借入で賃貸アパートを建てることでした。そのため、至る所にアパート、マンションができてしまい、駅から遠く買い物に不便なところや老朽化した建物など条件の悪いところは空室となっています。
 そうした現実から相続税の節税対策のトレンドとしては、不良資産を売却して優良資産を購入して不動産運用をする資産組み替えの時代へと変化しています。
 たとえば、古アパートを所有しているが、賃料が安く、収益が上がらなくなった場合は、売却して、駅近郊の収益物件を購入することで、収益も改善されます。

◇所有他の立地を替えるために買い替え

 所有している土地が賃貸事業に適していないこともあります。賃貸にするのであれば、最寄り駅からの距離が徒歩10分程度であることが第一条件です。周辺の住環境なども重要になりますが、所有地だけにそうした条件は今から選べません。賃貸事業をするのであれば、適地であるかそうでないかを冷静に判断し、適さないとわかれば、その土地を売却して、別の方法で賃貸事業をするようにします。これが資産組み替えです。
 賃貸するのであれば、最寄り駅から近いことや周辺の環境や立地のブランドなどを選択基準とするようにすると賃貸や売却にも有利になります。

6【活用】土地に賃貸住宅を建てて賃貸事業をする

◇土地を守れば次世代へ継承できる

 不動産を所有していれば、毎年、固定資産税が課税されます。固定資産税を納税してはじめてその不動産は維持できるのですから、土地を守ることは並大抵ではありません。できればその土地を活かして収益があがれば苦労なく維持できるというものです。それにはその土地で賃貸事業をすることが選択肢のひとつとなります。守り抜いて次世代に継承できれば、やはり大きな価値があることなのです。

◇アパートを建てたら大きな節税になる理由

 所有する土地が賃貸事業に適していると判断された場合は、賃貸事業の収支計画が成り立つことを確認した上で、アパートやマンションを建築することで相続税は確実に、大きく節税できます。多くの土地を所有する場合は、土地を活かして節税対策をすることが必要になりますので、土地を活かした賃貸事業は有力な選択肢と言えます。
 では、なぜ、所有地にアパートを建てたら節税になるのか、節税しましょう。

①建てる土地の評価は、「貸家建付地」評価となります。借地権が60%借家権が30%のところでは、更地評価から18%を引くことができ、82%の評価として計算します。②さらに、賃貸物件を建てる際の借入金は、負債として引くことができます。
③また、建物評価は固定資産税評価額となりますが、現実にかかった建築費よりも低く評価されており、賃貸物件の場合は借家権30%を引いた70%評価とします。なります。それを賃貸していればさらに借家権の割合をかけて70%で評価します。

 このような貸家建付地の評価減、建物の評価減、負債のマイナスを総合するとかなりの減額となり、相続税は確実に安くできるというわけです。

◇小規模事業用宅地等評価減の特例も

 賃貸事業用地は、「小規模事業用宅地等評価減」の特例があり、条件に当てはまれば200㎡までは50%で評価をすることができます。居住用の小規模宅地等特例が使えない場合には、賃貸事業を始めておくことも節税になります。

◇賃貸事業は収入の大きな支えとなる

 相続税の節税対策が主目的だとしても、適正な収益が上がる事業としてスタートすることが大切です。そうした見極めの上で賃貸事業に取り組むことができれば所有地から適正な収益が上げられ、しかも節税対策にもなり、土地を本来の価値を活かすことができます。

7【法人】賃貸経営の会社をつくって資産増を回避する(賃貸管理会社)

 所有地に賃貸マンションを建てて、節税対策をするということは、大変な労力が必要となります。決断してから着工、完成まで1年から2年はかかるため、待望の賃貸マンションが完成すれば、やれやれと思いたいところです。
 しかし、賃貸事業が順調に稼働し、家賃が入るようになると、今度は所得税がかかるようになります。節税対策をして財産評価を減らしたのはいいけれど、家賃収入として現金が入ってくることは、財産が増えることになります。そのままでは、賃貸マンションを建てた節税効果は確実にあるというものの、増える現金に対して相続税が課税されますので、それも防ぎたいところです。

◇不動産管理会社を作ると節税できる

 そうした場合、現金が増えることを避けるために、不動産管理会社となる法人を作り、会社に家賃の一部を払うことで現金が増えることを防ぐ方法があります。自分以外の親族をその法人の株主や役員にして、配当や役員報酬を払うことで、納税資金を貯めることもできるようになり、自分の所得税は減らすことができるのです。
 相続税や所得税は増税に向かっていますが、法人税の税率は個人の所得税の税率よりも低く設定されていることから、法人を活用するメリットが生まれるといえます。

◇サブリース方式と管理委託方式がある

 この不動産会社を利用する方法には、自分の持っているアパート・マンション等を一括してその管理会社に貸し付ける方法(サブリース方式)と管理会社にそのアパート・マンション等の管理をまかせる方法(管理委託方式)とがあります。

「サブリース方式」とは、管理会社に自分のマンションを一括して貸し付け、その後、その管理会社が第三者に貸付けるという方法です。
「管理委託方式」とは、不動産管理会社に不動産の管理をまかせて管理料を支払うという方法です。

◇所有方式もあるが節税効果は少ない

「所有方式」とは、土地は個人所有のままで、建物だけを会社が所有し、会社が建物オーナーとして第三者に賃貸する方式です。この場合は、建物を会社名義で建てるため、個人の借入はなくなりますので、節税対策とすれば、土地を同族会社に貸していることの減額のみで効果は少なくなります。

評価の違いが節税になる 「現金」vs「不動産」 節税は「財産を減らすこと」+「評価を下げること」の組み合わせ

不動産でできる節税対策はいろいろある

 相続税がかかる方の多くは、現金よりも不動産を多く所有されているのが現状でしょう。不動産をいくつも所有している場合では、評価も大きく、千万単位、億単位で相続税が課税されます。そうなると、「不動産」を所有していることが課題になるということです。

  • 不動産があるから相続税がかかり、納税が難しい。
  • 不動産は個々に違い、評価が難しい。
  • 不動産があると分けにくく、もめてしまう。などなど。

 このように、財産の大半を占めるのが「不動産」ですので、相続になると「不動産」の知識がないと節税もできずに、トラブルのもとを作ることになりかねません。しかし、考えようによっては、「不動産」を活かすことで、節税でき、相続を乗り切ることができ、財産を継承させる価値を生むことができる、とも言えるのです。
 「不動産」の大きなポイントは「利用の仕方で評価が変わる」ということです。額面どおりの評価になる「現金」とは違う特徴がありますので、その特徴を対策に活かすようにすれば、評価がさがりますので、節税を創り出すことができます。
 そのためには、生きているうちに、「不動産」の評価の仕方を利用した対策を実行しなければなりません。選択肢はいくつもありますので、財産の内容や家族の状況などによって、適切な方法を選択して、早めに計画的な相続対策をしておきましょう。
 対策は1つでよいとは限らず、いくつかを組み合わせる場合もあります。どの程度の節税が必要なのか、どの「不動産」を対策用に使うのかは、お一人おひとりの財産の内容や家族の商況によって、全部違うと言えます。対策にかける時間や本人の状況や考え、家族の考えによっても変わってくるかも知れません。
 いずれにしても、財産の中に「不動産」が多くある場合や相続税がかかるほどの「現金」がある場合は、「不動産」を活用することで相続税が節税できます。

 「不動産」を活用してできる節税対策を次の7つに分けて説明します。

  • 1【贈与】自宅を配偶者に贈与する・・・2000万円まで無税
  • 2【贈与】不動産を子供に贈与する
  • 3【建物】現金を建物に替える
  • 4【購入】現金で不動産を購入する
  • 5【組替】土地を売却、賃貸不動産に買い替える
  • 6【活用】土地に賃貸住宅を建てて賃貸事業をする
  • 7【法人】賃貸経営の会社をつくって資産増を回避する

1【贈与】自宅を配偶者に贈与して節税する

◇配偶者の贈与の特例を利用して無理なく節税する
 財産を所有するのは夫だけで、妻はいわゆる「専業主婦」の立場で家庭で夫や子供を支えてきたというご家庭は多いことでしょう。そうした妻の貢献があればこそ、夫は仕事に専念でき、財産を形成できたわけです。よって、相続になれば、配偶者の権利は保護されており、財産の半分の権利があります。
 生前にも贈与の特例があり、婚姻20年以上の妻に居住用の不動産を贈与しても2000万円までは贈与税がかかりません。通常の贈与を組み合わせると2110万円までは贈与税がかからずに、妻は自宅である財産を受け取ることができます。

 これは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。

特例を受けるための適用要件
  • (1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
  • (2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
  • (3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
  • (注) 配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。

◇一番手軽に節税でき、相続税の対象外で確実

 相続開始前3年以内に贈与された財産は、みなし相続財産として相続税を課税されますが、この配偶者控除を受けた場合だとみなし相続財産とはならず、除外されます。
登記や取得税がかかりますが、なんら形は変わらずとも、贈与契約や名義変更の手続きをするだけで、一番手軽で確実に節税できることです。
 贈与する土地と建物が2,110万円を超える場合は、評価に応じて持分を贈与するようにします。たとえば5000万円の自宅であれば5分の2を妻名義にし、残る5分の3が夫となります。
 そのようにして夫と妻の共有名義にしておくことで、将来、自宅を売却する場合、各人に3000万円の特別控除が受けられますので、2人分を合わせて6,000万円の特別控除が認められることになり、譲渡税も節税できるようになります。

2【贈与】不動産を贈与して節税する

◇現金よりも土地で贈与する方が有利

 現金の贈与は一般的に節税対策として多くの方が実行されていることでしょう。贈与税の基礎控除は年間110万円ですので、毎年、基礎控除の範囲内で少しずつ贈与を続けている方が多いのではないでしょうか。しかし、贈与は方法を間違うと、相続のときには税務調査の対象となり、結局、否認されて相続財産になるかもしれません。
 しかも、現金などの金融資産は額面どおりの時価で評価されます。100万円の現金は、現在も将来も100万円の価値だということです。大きな額の贈与をすると贈与税が課税される上、税務調査の可能性もあり、現金の贈与にはリスクもともないます。
 しかし、不動産の場合は、少し事情が違います。なぜなら不動産は時価よりも低い路線価や固定資産税評価で評価されますので、より多くの価値分を贈与できるということです。
 たとえば、都市部の場合、現在の地価は下落しており、将来上昇に転じることもあります。そうすると評価の低いときに贈与してもらうほうがよいと言えます。賃貸物件なら、贈与後の家賃収入も自分のものになり、節税効果と利用価値は大きいと言えます。

◇住宅資金の贈与よりも住宅をもらったほうが得

 相続税法上の建物の時価は固定資産税評価額、土地は路線価で決まるので、例えば、市場での時価が1億円の都心の土地と建物が、評価額は半分以下ということが普通にあります。
 そのため、住宅購入資金として現金を生前贈与してもらうより、親が住宅を購入し、それを贈与してもらったほうが節税になります。

◇相続時精算課税制度を節税対策とするには

 相続時精算課税制度では、相続財産と合算する贈与財産(相続時精算課税適用財産)の価額は、贈与時の価額で計算されるため、相続時に実際にその財産の価額が上がっていれば、結果的に節税となります。贈与財産が「贈与時の価額」と「相続時の価額」が一緒であるならば、基本的には相続税の節税にならないということになります。
 しかし、贈与財産の「贈与時の価額」と「相続時の価額」が一緒である場合でも、収益物件を贈与するならば、相続税の節税となります。
 例えば、親が賃貸アパートを持っているとすると、そこから入る家賃収入は親のものであるため、必要経費や所得税などを差し引いた残りは、当然親の財産となり、結果的に相続財産となってしまいます。けれども、賃貸アパートを贈与すれば、その後の家賃収入は子供のものとなるため、相続財産の増加を防ぐことになります。また、子どもは相続税納税資金として蓄えることができます。なお、所得の分散効果があるため、子どもより親のほうがはるかに所得があるならば、親・子ともに所得税が減ることになります。

3【建物】現金を建物に替えると節税になる(資産の組み替え)

◇建物は固定資産税評価額となり半分以下の評価になる

建物は、相続の時には実際にかかった建築費用ではなく、固定資産税評価額で評価をされます。固定資産税評価額とは、市町村の税務課(東京都23区では都税事務所)にある固定資産課税台帳に登録してある土地や建物の評価額のことです。固定資産税評価額は、次のような税金を計算するときに使います。

  • (a) 固定資産税や都市計画税の税額
  • (b) 不動産取得税や登録免許税の税額
  • (c) 相続税や贈与税を計算するときの土地や建物の評価額

固定資産税評価額は国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて市町村が決定します。一般的には、評価額は土地については時価の60~70%(公示価格の70%)、建物については建築費の50~70%ぐらいだとされていますが、現実の評価はこの割合以下のことが多く、建築費の半分以下になることもあります。

◇建物は「親の現金」「親名義で建てる」ことが節税になる

自宅を建てる場合に、誰の名義にすればいいかというご相談を多くの方から頂きます。

住む方の状況にもよりますが、相続税の節税という点から考えると、「親の現金」を使い、「親名義で建てる」ことが一番の節税効果となります。
二世帯住宅を建てる際など、ローンは子どもの方が借りやすいからなどという理由で、親の土地に、子ども名義の家を建ててしまうと、土地は使用貸借となり、評価が下がりませんので、親の節税になりません。親の現金を使うことに抵抗があること場合もあるでしょうが、節税対策という点では、現金の余裕がある場合は、建物代金に使うことで節税になります。

◇賃貸住宅に使うとさらに評価は70%になる

 建物を賃貸していれば、貸家となり、借家人が存在する場合の家屋の評価額は、賃借人に一定の権利があるものと考えられ、借家権割合30%を引くようにします。そのため、固定資産税評価額の70%として評価されることになります。
 よって、現金の余裕がある場合は、賃貸住宅の建築代金につき、借入ではなく現金で支払うようにすれば、固定資産税評価となり、さらに貸家評価になりますので、建築代金の半分以下の評価に変わり、大きな節税となります。

4【購入】資産は多額の現金より不動産で持つ(資産の組み換え)

◇現金より不動産で持つほうが節税には有利

 最近では、「相続税の税務調査は預金調査」と言われており、亡くなった人の預金から家族の口座に資金移動された形跡があると、配偶者、子ども、孫など、家族の預金も全部調べられてしまうようです。預金では評価を減らすことはできませんし、隠すこともできません。むしろ、まとまった額を預金でおいておくことは不安でリスクがあるということになります。
 では、現金についてはどうすれば節税になり、財産を残すことができるのでしょうか?
その答えのひとつとして、「賃貸不動産を購入すること」が節税するには、効果的な方法です。現金を不動産に替えることによって評価が下がるからです。

◇路線価は時価の80%程度とされている

 不動産は時価より2~3割程度評価が下がります。賃貸用の建物は、評価額は建築価額の3~4割程度になり、ともに不動産になると評価は下がります。
一般的に土地の評価額の関係は大都市ほど以下のように調整されています

  • 公示価格     100%(時価相当額、売買されている指標数字)
  • 路線価      80%(相続税評価額、相続贈与の財産評価の価額)
  • 固定資産税評価額 70%(市役所が固定資産税課税するために評価する価額)

◇現金1億円で賃貸マンションを購入すると評価は半分以下になる

 建物5000万土地5000万計1億円でマンションを購入し、賃貸した場合の相続税評価額は以下のようになります

  • (1)建物の評価額 購入価額の30%の固定資産税評価額になる
     5000万×30%=1500万
     賃貸すると『貸家』となって借家権割合が控除出来るので 1500万×70%=1050万
  • (2)土地の評価額 購入価格の80% 5000万×80%=4000万
     さらに賃貸すると『貸家建付地』となって借地権割合×借家権割合が控除できるので
     4000万×(1-(0.6×0.3))=3280万 
  • (3)建物と土地の相続税評価額(1)1050万+(2)3280万=4330万
     物件購入代金で現金が1億円減少します。相続財産も1億円減少します。増える建物と土地の相続財産は4330万です。差し引き5670万円が節税できたことになります。

5【資産組換】相続した土地を守るより価値を上げて残す (不動産の買い替え)

◇数よりも質、収益があがる不動産が財産となる

 残念ながら、現在では、土地を持っているだけで財産になる時代ではなくなったと言えます。持っているだけでその土地からの収益がなければ、固定資産税や維持費がかかるばかりで持ち出しとなり、資産とは言えない状態です。駐車場にして貸していると言っても相続税の節税効果はありません。
 今までは多くの土地を所有することが資産家の証であり、財産でしたが、固定資産税や維持費を考えると、これからは、収益力のある土地が財産であり、収益力がない土地は不良資産となりかねません。
 こうしたことから、土地は、数よりも質にこだわって、選別していく時代になったと発想を変えることが必要でしょう。

◇土地を減らして建物に換える

 多くの土地や大きな土地を所有する場合、そのままでは節税対策はできません。土地の一部は売却して、売却代金で建物を建てたり、賃貸マンションを購入したりし、収益を上げられる不動産に組み換えていくことで節税になるのです。

◇不良資産から優良資産への転換

 いままでの節税対策の主流となっていたのは、所有地に借入で賃貸アパートを建てることでした。そのため、至る所にアパート、マンションができてしまい、駅から遠く買い物に不便なところや老朽化した建物など条件の悪いところは空室となっています。
 そうした現実から相続税の節税対策のトレンドとしては、不良資産を売却して優良資産を購入して不動産運用をする資産組み替えの時代へと変化しています。
 たとえば、古アパートを所有しているが、賃料が安く、収益が上がらなくなった場合は、売却して、駅近郊の収益物件を購入することで、収益も改善されます。

◇所有他の立地を替えるために買い替え

 所有している土地が賃貸事業に適していないこともあります。賃貸にするのであれば、最寄り駅からの距離が徒歩10分程度であることが第一条件です。周辺の住環境なども重要になりますが、所有地だけにそうした条件は今から選べません。賃貸事業をするのであれば、適地であるかそうでないかを冷静に判断し、適さないとわかれば、その土地を売却して、別の方法で賃貸事業をするようにします。これが資産組み替えです。
 賃貸するのであれば、最寄り駅から近いことや周辺の環境や立地のブランドなどを選択基準とするようにすると賃貸や売却にも有利になります。

6【活用】土地に賃貸住宅を建てて賃貸事業をする

◇土地を守れば次世代へ継承できる

 不動産を所有していれば、毎年、固定資産税が課税されます。固定資産税を納税してはじめてその不動産は維持できるのですから、土地を守ることは並大抵ではありません。できればその土地を活かして収益があがれば苦労なく維持できるというものです。それにはその土地で賃貸事業をすることが選択肢のひとつとなります。守り抜いて次世代に継承できれば、やはり大きな価値があることなのです。

◇アパートを建てたら大きな節税になる理由

 所有する土地が賃貸事業に適していると判断された場合は、賃貸事業の収支計画が成り立つことを確認した上で、アパートやマンションを建築することで相続税は確実に、大きく節税できます。多くの土地を所有する場合は、土地を活かして節税対策をすることが必要になりますので、土地を活かした賃貸事業は有力な選択肢と言えます。
 では、なぜ、所有地にアパートを建てたら節税になるのか、節税しましょう。

①建てる土地の評価は、「貸家建付地」評価となります。借地権が60%借家権が30%のところでは、更地評価から18%を引くことができ、82%の評価として計算します。②さらに、賃貸物件を建てる際の借入金は、負債として引くことができます。
③また、建物評価は固定資産税評価額となりますが、現実にかかった建築費よりも低く評価されており、賃貸物件の場合は借家権30%を引いた70%評価とします。なります。それを賃貸していればさらに借家権の割合をかけて70%で評価します。

 このような貸家建付地の評価減、建物の評価減、負債のマイナスを総合するとかなりの減額となり、相続税は確実に安くできるというわけです。

◇小規模事業用宅地等評価減の特例も

 賃貸事業用地は、「小規模事業用宅地等評価減」の特例があり、条件に当てはまれば200㎡までは50%で評価をすることができます。居住用の小規模宅地等特例が使えない場合には、賃貸事業を始めておくことも節税になります。

◇賃貸事業は収入の大きな支えとなる

 相続税の節税対策が主目的だとしても、適正な収益が上がる事業としてスタートすることが大切です。そうした見極めの上で賃貸事業に取り組むことができれば所有地から適正な収益が上げられ、しかも節税対策にもなり、土地を本来の価値を活かすことができます。

7【法人】賃貸経営の会社をつくって資産増を回避する(賃貸管理会社)

 所有地に賃貸マンションを建てて、節税対策をするということは、大変な労力が必要となります。決断してから着工、完成まで1年から2年はかかるため、待望の賃貸マンションが完成すれば、やれやれと思いたいところです。
 しかし、賃貸事業が順調に稼働し、家賃が入るようになると、今度は所得税がかかるようになります。節税対策をして財産評価を減らしたのはいいけれど、家賃収入として現金が入ってくることは、財産が増えることになります。そのままでは、賃貸マンションを建てた節税効果は確実にあるというものの、増える現金に対して相続税が課税されますので、それも防ぎたいところです。

◇不動産管理会社を作ると節税できる

 そうした場合、現金が増えることを避けるために、不動産管理会社となる法人を作り、会社に家賃の一部を払うことで現金が増えることを防ぐ方法があります。自分以外の親族をその法人の株主や役員にして、配当や役員報酬を払うことで、納税資金を貯めることもできるようになり、自分の所得税は減らすことができるのです。
 相続税や所得税は増税に向かっていますが、法人税の税率は個人の所得税の税率よりも低く設定されていることから、法人を活用するメリットが生まれるといえます。

◇サブリース方式と管理委託方式がある

 この不動産会社を利用する方法には、自分の持っているアパート・マンション等を一括してその管理会社に貸し付ける方法(サブリース方式)と管理会社にそのアパート・マンション等の管理をまかせる方法(管理委託方式)とがあります。

「サブリース方式」とは、管理会社に自分のマンションを一括して貸し付け、その後、その管理会社が第三者に貸付けるという方法です。
「管理委託方式」とは、不動産管理会社に不動産の管理をまかせて管理料を支払うという方法です。

◇所有方式もあるが節税効果は少ない

「所有方式」とは、土地は個人所有のままで、建物だけを会社が所有し、会社が建物オーナーとして第三者に賃貸する方式です。この場合は、建物を会社名義で建てるため、個人の借入はなくなりますので、節税対策とすれば、土地を同族会社に貸していることの減額のみで効果は少なくなります。

評価の違いが節税になる 「現金」vs「不動産」 節税は「財産を減らすこと」+「評価を下げること」の組み合わせ