INHERITANCE

不動産を生かした賢い相続

土地持ち資産家の相続対策のヒントになる10項目

1.現金を残しても節税できない・・・現金も活用を考える

 「土地さえあれば値上がりする財産」と常識が崩れたため、価値が変わらない「現金」を残すため、多く方はコツコツ貯蓄をしてこられました。相続相談に来られる方の多くは、子供や孫に残すために自分たちは節約し、何千万円も、中には億単位で貯めておられ、「相続税がかかっても現金があるから払えるので安心だ」と言われます。
 けれども、今や預金の利息で生活費になるのは夢の話で、ほとんど利息がつかないばかりか、相続になると、貯めてきた現金に課税をされるのです。預貯金は、金融機関に預けてある残高がそのまま財産評価となり、亡くなったら1円も減らすことはできません。現金のままでは、節税できないのです。
 1億円の現金を残して亡くなると相続人の子供1人の場合でどうなるか、検証します。

 このように、1億円の財産を一人の相続人が相続するときには、1220万円の納税が必要になります。他に相続税の申告費用などもかかりますので、残りは8500万円程だとすると、10ヶ月の間に財産の15%が減ってしまうということになります。
 全部無くなるわけではなく、残りがあればいいのでは、という方もあるかも知れませんが、別の形で財産を維持すれば、全部を残すことはできるのです。
 たとえば、1億円で自宅を購入し、子供が同居していれば、評価と特例の効果で納税は不要になります。また、1億円で賃貸不動産を購入し、賃貸事業をしている場合も、評価と特例の効果で納税も申告も不要になります。このように計画的に財産を維持すれば、目減りすることなく、相続を乗り切り、次世代へ継承させることができるのです。
 それにくらべて、預金は、今や、銀行利息がほとんどつかない時代となりました。現金は持っていれば増える財産ではなく、不動産などに投資して、節税しながら、収益を得る、「投資する財産」だと考える必要があります。生前に贈与をしたり、節税対策や快適な生活のために有効に使うことを考えて、実行してこそ、有効な財産と言えるでしょう。

■チェックポイント
  • □現金・預金・有価証券の額を確認しているか
  • □必要以上の現金・預金・有価証券を残していないか

2.預金は税務調査の対象になる・・・名義預金は相続財産

 相続になると、亡くなった人の様々な権利・義務を引き継ぐことになります。財産や負債などをすべて評価をして、基礎控除を超えているようであれば、税務署に相続税の申告書を提出し、納税しなければなりません。相続税の申告書を提出すると、税務署はその内容を確認し、ほぼ1年くらいの間に税務調査が行われることが一般的です。
 以前は主に土地の評についての指摘が多かったのですが、最近では、税務調査は預金調査が中心のことが多いようです。それも、亡くなった人の名義だけでなく、家族名義の預金はほとんどが調査をされ、指摘を受けると言われています。
 なぜかというと、亡くなった人の財産が相続財産ですから、本人名義にしておかずに、配偶者、子ども、孫などの預金口座を作った預金を移しておけば、自分の財産から除外されると思いがちです。
 贈与はあげる人ともらう人の意思確認ができていることが前提ですので、こうして自分が勝手に作った預金は、名義人に渡してもいないし、知らせていないという預金は、贈与は成立しておらず、相続財産だと言われてしまうのです。
 中には本来の家族名義の預金であったり、定期的に贈与をしてきたものだったりとすでに相続財産ではないと説明できることもあるでしょう。その場合は、根拠となる資料を用意し、指摘されても税理士が説明できるようにしておきます。
 しかし多くの場合は、亡くなった人の財産で作った家族名義の預金だという場合が実情のようで、税務署から相続財産の申告漏れだと指摘されても仕方が無いところです。名義が違うから問題ないと安易に考えていると相続財産として指摘され追徴され、中には故意に隠したと重加算税を課税されることもあります。
 このようにあとから指摘をされないように、家族名義の預金や貸金庫は事前に確認をし、はじめから相続財産として申告しておくほうが無難ということになります。

 こうしたことから、財産を銀行預金で持つことは、節税できず、方法を間違うと税務調査の対象にもなります。預金で持つことは安心とは言えず、リスクもあると考えなければなりません。これは、株式などの有価証券も同様で、家族名義の株も預金と同様に調査され、指摘されますので、預金で持つことが安心とは言えない時代です。

■チェックポイント
  • □名義預金、名義株はないか?
  • □通帳や印鑑、証書などを自分が保管したままではないか?
  • □預金から送金、引き出した贈与はないか?

3.駐車場では節税にならない・・・建物を建てないと評価は減らない

 多くの土地を所有している資産家にとっては、先祖から相続した土地を売らずに維持していきたいと考えておられる方は多いでしょう。自分の代で減らすわけにはいかないということのようです。かつては土地があるというだけで羨望の目で見られていた土地持ち資産家であったのに、今や土地持ち資産家はうらやましいばかりの存在ではなくなりつつあります。なぜなら、不動産を多く所有しておられる誰もが、申し合わせたように、「固定資産税が大変」と言われる時代になっているからです。
 固定資産税の捻出のためには、土地から収益があがる事業をすることが望ましいのですが、賃貸住宅を建てるには、建築費が必要になりますし、果たして賃貸事業を始めていいのかという迷いもあるでしょうし、なかなか思い切って決断できないこともあるでしょう。
 けれども、特段事業をすることもない空き地であっても、土地を持っているだけで固定資産税はかかるため、「とりあえず、駐車場」にすることで、固定資産税の収入源にしている場合が多いのではないでしょうか。
相続になったときを考えると、貸し駐車場には建物が建っておらず、自用地ですので、更地とおなじ100%評価で、減額の要素はありません。アスファルトや砂利敷きにした貸し駐車場であれば、貸付事業用小規模宅地等の特例を適用することができ、200㎡を限度として、50%の評価減を選択することが可能になります。
 但し、貸し駐車場が「貸付事業」となるには、賃貸契約書を作成して第三者に対して継続的に賃貸をしていること、機械式の立体駐車場やアスファルトなどの構築物が設置されていることが要件となります。使用貸借や著しく低い対価での賃貸や、特例の適用のために一時的に貸付けを行ったような場合等は認められません。判断が難しいのが砂利敷きの駐車場で、特例が認められないこともあるため、注意が必要です。
 他人に貸していれば、駐車場でも相続のときに土地の評価が下がるのではないかと勘違いをしている方もありますが、土地に建物を建てないことには評価が下がりません。駐車場として貸していても、なんら、減額されないため、節税にはならないということです。
 仮に相続になったら納税のために売れるように、駐車場にしてあるという場合、そのまま所有するのは無策と言えます。財産の内容に見合った節税対策を取るためには、駐車場の土地も活用を検討するべきでしょう。

■チェックポイント
  • □貸し駐車場にしている土地はあるか?
  • □アスファルト舗装などの構築物はあるか?

4.余分な土地は持てない時代・・・空き地には税金が負担

 土地神話のある頃、土地は持っていれば値上がりする一番の財産でしたので、土地持ち資産家の財産は、ただ持っているだけで、年々価値が増えていきました。持っているだけで十分な財産だったのです。ところが、いまや、価値が上がることは期待しにくく、まだ下がることも想定されます。目に見える「土地」の実態に変わりがなくても、「評価額」という価値が目減りしていくのです。
 今までは多くの土地を所有することが資産家の証であり、財産でしたが、固定資産税や維持費を考えると、これからは、収益力のある土地が財産であり、収益力がない土地は不良資産となりかねません。数よりも質にこだわって、選別していく時代になりました。余分な土地は持てない時代になったと言えます。
 アベノミクス効果やオリンピック効果が見込まれ、明るい話題や期待感が出てきたとはいえ、また、土地神話が復活するような土地評価の回復になることは望めないようです。
 こうした状況で、すでに資産をかかえる土地持ち資産家にとっては、これからが正念場となることでしょう。
たとえば、空き地がたくさんあるが全部を活用する決断ができない、どの土地も同じ地域に固まってあるため賃貸住宅を建てるほど競合する、固定資産税の支払いに苦慮するなどが重なると、一部を売却して支払いに補填しようとなるのは致し方ないことでしょう。
 生まれ育った地元の土地が負担になる人も増えてきました。仕事の都合で家を離れ、そのまま家庭を持つようになるとなかなか地元には帰れなくなります。そのうち、親が亡くなると、もう帰る理由がなくなり、地元に戻って住むということもないでしょう。相続した家は空き家となり、維持することが負担になることにもなりかねません。
 自分の代であれば、生まれ育った記憶や、その土地で生活していた思い出があれば、思い入れがあり、親が残してくれた実家を残したいと思う気持ちが強いことでしょう。しかし、配偶者や子供にとっては、そうした思い入れはないため、自分の思いとはかなり温度差があることは否めません。こうした不動産を自分が決断して、維持しやすく、負担のない形にしておくことが必要でしょう。

■チェックポイント
  • □利用する予定のない空き地はないか?
  • □維持することが負担に感じる土地はないか?

5.空室だと節税できない・・・満室経営が節税になる

 空き地にアパートやマンションを建ててさえおけば、相続税の節税になると思っている人は多いでしょう。
アパートやマンションが相続税の節税になる理由は、自分の土地に貸家(アパート、マンションなど)を建てている場合は、「貸家建付地」として、更地評価から借地権、借家権などが生じる割合を差し引いて計算し、建物に関しても借家権割合を差し引いた評価をするためです。さらには、貸付事業には、「小規模宅地等の特例」を適用することができ、200㎡まで評価を50%減額することができるのです。
 ところが、こうした「貸家建付地」や「小規模宅地等の特例」の減額が得られるのは、相続になったときに現実に貸し付けられていることを前提とします。
 したがって、空き室や空き家部分には、「貸家建付地」評価や「小規模宅地等の特例」は適用できずに、更地価額としなければなりません。
 建築費の返済も終わっていて、全室が空き家という場合は、更地評価となり、節税効果は全くないのです。全室が空き家でなくても、評価減が得られるのは、貸している部分だけとなり、たとえば、10室のうち入居者があるのが5室、残りの5室が空室となったままのアパートで、いずれ壊すつもりでリフォームもせず、募集もしていなかったと言う場合は、「貸家建付地」は敷地の半分となり、「小規模宅地等の特例」も半分の減額しか得られない計算になります。貸家の形はあっても節税効果は少なくなるということです。
 賃貸住宅には、入退去がつきものですが、相続対策を勧められた頃より家賃相場が下がってしまったことや築年数が経っていくごとに入居者が見つかりにくくなり、空室期間が長くなっていることもあるでしょう。
 建築費のローンがあれば、返済はしなくてはならないため、できるだけ満室にして持ち出しなしに維持したいという意識がありますので、賃貸事業として稼働しているのですが、返済もなくなった頃には、差し迫ったことがないため、空室になっても、リフォームもせずに空室のまま放置している方もあります。
 こうした状態で相続になっても、節税効果が得られません。賃貸住宅が建っているので節税になると思い込んでいる方も多いかもしれませんが、節税するには、満室経営が必要なのです。

■チェックポイント
  • □所有する賃貸住宅は満室になっているか?
  • □リフォームも募集もせずに放置している部屋はないか?

6.借金しなくても節税対策はできる・・・資産組み替えという方法

 土地持ち資産家は、多くの土地や大きな土地を所有されていることでしょうから、なんらかの節税対策をしないと、固定資産税、相続税の負担が大変です。そのため、土地の評価がどんどんあがった平成のはじめの頃には、「借金をしてマンションを建てること」が相続対策だと思われてきました。
 確かに相続税の節税にはなりますが、建築会社と金融機関主導の借入ありきの計画が多かったのです。そのため、賃貸事業の収支バランスはあまり気にせずにスタートしていることがほとんどでした。その後のバブル崩壊で、土地の評価が下がり、家賃の下落も始まり、景気も悪くなったことで空室も増えました。
 こうした状況でも建築費のローン返済額は下がりません。よって、家賃収入が下がって、ローン返済に足りずに、自己資金を持ち出してようやく返済をしてということもありました。こうした苦い経験をした人やその様子を見聞きした人は、「借入は絶対にしたくない」という心境になったようです。
 そうした場合、借入なしに節税対策をすることもできるのです。

 たとえば、土地の一部は売却して、売却代金で建物を建てたり、賃貸マンションを購入したりし、収益を上げられる不動産に組み換えていく方法があります。売却代金を元手にその範囲であらたな建物や賃貸住宅を購入するので、借入は必要ないのです。
 所有している土地のどれもが賃貸住宅に適した立地でないこともあるでしょう。賃貸住宅にするのであれば、最寄り駅からの距離が徒歩10分程度であることが望ましいと言えます。周辺の住環境なども重要になりますが、所有地だけにそうした条件は今から選べません。
 賃貸事業をするのであれば、適地であるかそうでないかを冷静に判断し、適さないとわかれば、その土地を売却して、別の立地で賃貸事業をするようにします。これが資産組み替えです。たとえ、今まではアパートにしていた土地であっても、古くなったり、ローンが終わっている場合は、売却、買い替えることを検討するべきでしょう。

 たとえば、年間収入250万円の古いアパートを1億円で売却し、家賃が10万円の賃貸マンションを4つ購入すると、年間収入は480万円となり、約2倍近い収入が得られるようになり、駅に近く、資産になる不動産に替えられるのです。

■チェックポイント
  • □節税対策が必要でも借入はしたくないと思っているか?
  • □資産組み替えが必要であれば決断できるか?

7.認知になったら対策できない・・・意思確認が不可欠

 財産を持つ人が亡くなった場合は相続となりますので、相続人が手続きをしますが、節税の余地はあまり残されていません。土地の評価を下げることや特例を使って納税を少なくすることくらいになります。
 けれども、生きているうちであれば、いろいろな方法で節税対策を取ることができ、納税も申告も不要にできることもあります。なので、誰しも生前に節税対策を取りたいと思うでしょう。
 ところが、それができないことがあります。理由の一番は、「本人の意思確認」です。贈与するにも、売買するにも、賃貸事業の請負契約や融資の契約をするにも、すべて、本人ま意思がなくてはできないことなのです。
 現在は、超高齢化社会に突入しており、財産を持つ人の年齢もどんどん上がっています。60代から高齢者と言われますが、70代、80代は当たり前、90代の方も普通におられて、100歳以上の方もめずらしくはありません。
 どなたも元気で長生きならいいのですが、体は元気でも意思能力が低下し、「認知症」と診断をされる人も増えてきました。
 財産のことですので、銀行預金の引き出しや不動産の売却など、すべてのことは「本人の意思確認」が原則ですので、「認知症」と診断されたり、その後、財産管理の成年後見人が選任されたとなると、相続人全員の合意がたったとしても、前向きな節税対策はとれないのです。
 「認知症」と診断されてしまった場合でも、自宅の売却などができる場合がありますが、それには家庭裁判所の許可をもらい、「本人の生活費の補填にする」などという名目が必要になります。財産管理は、あくまで財産の保全が目的ですので、節税対策のためということでは認められず、売却代金を保管することになります。

 こうしたことから、生前対策は少しでも早いほうがよいということになります。場合によっては、今すぐに、ということもあるでしょう。まだ先でもいいのでは、と思い巡らしているうちに認知症が進んでしまって間に合わなくなるかもしれません。

■チェックポイント
  • □財産を持つ人親が認知症と診断されているか?
  • □成年後見人をつけているか?

8.もめたら節税できない・・・不動産が相続トラブルのもと

 相続になって遺産分割がうまくいかないというご相談は年々減ることがありません。親子や兄弟姉妹で話し合うことができなくなってしまい、困り果てて来られる方が多く、中には、すでに家庭裁判所の調停や裁判をされていることもあります。
 相続の手続きをするために集まると、最初は言い合いになり、次第に感情的になり、昔のことや余計なことを言い過ぎて、責め合ってしまうと、身内だからこそ一言が許せなくなります。そして、直に話をすることもできなくなり、顔を合わすこともなくなります。
そうなると、身内だからこそ許せない、譲れない、絶対に協力しない、ハンコは押さないという気持ちになります。修復できないほどの険悪な関係となり、互いに妥協できないことで絶縁になるのです。
 財産が多いからもめるのではと思いがちですが、現実には、財産が少ないほうが深刻にもめてしまう傾向にあります。資産家であれば手続きのために専門家がサポートしますので、大変になることは少ないのですが、そうでない場合は、家族で手続きを進めるため、調整役がいません。そのため、もめる相手は、実の兄弟姉妹が圧倒的に多いのです。それも二人、三人と、きょうだいが少ないほど簡単にもめてしまう結果となります。
 遺産分割でもめてしまう要因のひとつに、財産が分けられないことがあります。預貯金、株などの流動資産であれば、1円単位まで分けられますが、不動産が分けにくいということがあるからです。

 たとえば相続人が複数いるのに不動産は1ヶ所という場合があります。親が亡くなったら、空き家になって売却して相続人で等分に分けるというのなら、だれも文句はないところです。しかし、相続人の1人が住んでいて、不動産が自宅だけで預貯金がほとんどないということも多いのです。そうなると、なかなかまとまりません。
 自宅と賃貸物件があっても、1人の相続人が独占したいこともあります。収益がない自宅だけではつまらないので、収益がある共同住宅ももらいたいということです。よって不動産は全部相続するということになり、家を出ている相続人には分けられないとなります。
 相続税の申告時には小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの特例があり、遺産分割協議がまとまれば納税の負担を減らす余地は残されています。特例が活かせるか否かで納税額が大きく変わることもありますので、節税するためには、もめずに遺産分割をすることが必要なのです。

■チェックポイント
  • □遺言により分割が指定されているか?
  • □もめずに遺産分割協議ができるか?

9.遺言作りも配慮が必要・・・公正証書だから安心とも言えない

 遺言書があればもめない相続ができると思いたいところですが、現実には、「遺言書があったことでもめてしまった」ことが多々あります。なぜかというと、遺言の存在を知っていた相続人の一人に偏った内容の遺言書があったからです。
 たとえば、相続になり、同居する長男が亡くなった父親の遺言書を出してきました。遺言書には”長男に全財産を相続させる”と書かれており、他の相続人は遺言書の存在は一切知らされていなかったということです。
 こうした場合、長男以外の相続人は、父親が自分の意思でその遺言書を書いたとは思わず、長男が財産を独り占めしたいために父親に遺言を書かせたとしか思いません。生前には父親から別の分け方を聞いていたり、預貯金はみんなで分けるようにと言われていたような場合はなおさら、長男を疑うようになります。

 また、遺言書には「長男に全財産を相続させる」というような場合、二男や長女など他の相続人の分割の内容の記載がなく、そればかりか、名前なども一切書かれていないことがあります。こうした場合、同じ子供なのになぜ名前もないのかという気持ちになるようです。なおさら、親が書いた遺言ではなく、長男が書かせたと疑う気持ちや怒りを引き出すことになるのです。
自筆遺言書の場合は、「筆跡が違う」と思う相続人も多くあります。親の遺言ではないと納得いかないときには、筆跡鑑定をして裁判で遺言の無効を主張することもあります。
 公正証書遺言でも「父親は認知症で遺言できる状況ではなかった」と指摘されることもあり、ときに遺言の存在が問題になることがあります。
 長男に偏った遺言であれば遺留分減殺請求ができますので、長男に財産の公開を求めることになりますが、預貯金の額を教えず、通帳なども見せないという反応となることはよくある話で、最初から喧嘩腰ということさえあります。こうなると遺言書があったために、かえって悪感情を引き出してしまう結果になりかねません。
 こうした現状から教訓を引き出すのであれば、「遺言書はこっそり作らない」ことが大事だということです。いままでの遺言書は、「こっそり書いて、誰にも見つからないように隠しておく」というイメージでしたが、これではうまくいきません。争いのない相続を用意しようというのであれば、遺言書は相続人全員に作ることや内容をオープンにしておくことが必要です。これができていないとせっかくの遺言書が仇になることもあるのです。

■チェックポイント
  • □遺言書の存在はオープンにされているか?
  • □偏った内容の遺言書になってはいないか?

10.生前対策は不可欠・・・もう資産家は動き出している

 いままで延び延びになっていた相続税についても、2015年から改正されることが決まりました。改正されると課税対象となる方が増え、増税にもなるため、日々、相続への関心が高まっています。
 相続は財産を持つ人だけが考えればよいということでなく、家族にも関わる問題です。よって、夫婦、親子、兄弟姉妹などの親族で、相続の話が普通にできることが望ましいのですが、それができていないために節税できなかったり、もめてしまったりと苦労されるご家庭が多いのです。相続になってからではできないこと、うまくいかないことがありますので、生きているうちに家族のコミニュケーションを取り、適切な対策を取っておくことが必要な時代になったと考えて下さい。
 そうした中、この時期に対策をしたいという方が増えており、毎日のように相談に来られます。また、相続セミナーへの関心が高まっており、夫婦や親子で参加される姿も見受けられるようになりました。

 79歳のAさんご夫婦は、いよいよ対策をしておきたいと空き地を売却、賃貸不動産へと資産組み替えをされました。背中を押したのは73歳の妻と40代の二人の子供です。60代のBさんは次男で兄と弟があり、92歳の父親と89歳の母親も含めて家族全員で家業の今後や父親の相続について話をしました。両親の気持ちを尊重しながら、自宅と家業を残し、子供たちが円満に継承できる方法を決めて、父親の遺言を作りました。
 40代で長女のCBさんも妹と二人で協力、76歳の父親、72歳の母親を説得して節税対策の検討を始めました。不動産が多く、両親に任せても不安があるからです。
 このように、相続というと、いままでは、なんとなくタブー視されていて、話題にもできないようなイメージがありましたが、いまでは、”家族で相続を考えなくてはならない”という認識の人が増えてきています。
 財産を持つ人がひとりで考えていても、進まないことが多く、やはり家族の協力やサポートが不可欠です。また、相続を受ける立場から行動を起こす人たちも増えてきました。何もしないと財産が減るばかりか、コミニュケーション不足によって、もめてしまうかもしれないからです。
 いまから、動き出すことで、円満でムリや無駄のない相続を用意することはできるのです。

■チェックポイント
  • □相続対策をしようと考えているか?
  • □家族の理解は得られるか?
大増税時代がやってきた

土地持ち資産家の相続対策のヒントになる10項目

1.現金を残しても節税できない・・・現金も活用を考える

 「土地さえあれば値上がりする財産」と常識が崩れたため、価値が変わらない「現金」を残すため、多く方はコツコツ貯蓄をしてこられました。相続相談に来られる方の多くは、子供や孫に残すために自分たちは節約し、何千万円も、中には億単位で貯めておられ、「相続税がかかっても現金があるから払えるので安心だ」と言われます。
 けれども、今や預金の利息で生活費になるのは夢の話で、ほとんど利息がつかないばかりか、相続になると、貯めてきた現金に課税をされるのです。預貯金は、金融機関に預けてある残高がそのまま財産評価となり、亡くなったら1円も減らすことはできません。現金のままでは、節税できないのです。
 1億円の現金を残して亡くなると相続人の子供1人の場合でどうなるか、検証します。

  • 相続財産 10000万円
  • 基礎控除  3600万円 (2015年以降)
  • 課税財産  6400万円
  • 相続税   1220万円 (税率30%-控除700万円)
  • 納税後   8780万円

 このように、1億円の財産を一人の相続人が相続するときには、1220万円の納税が必要になります。他に相続税の申告費用などもかかりますので、残りは8500万円程だとすると、10ヶ月の間に財産の15%が減ってしまうということになります。
 全部無くなるわけではなく、残りがあればいいのでは、という方もあるかも知れませんが、別の形で財産を維持すれば、全部を残すことはできるのです。
 たとえば、1億円で自宅を購入し、子供が同居していれば、評価と特例の効果で納税は不要になります。また、1億円で賃貸不動産を購入し、賃貸事業をしている場合も、評価と特例の効果で納税も申告も不要になります。このように計画的に財産を維持すれば、目減りすることなく、相続を乗り切り、次世代へ継承させることができるのです。
 それにくらべて、預金は、今や、銀行利息がほとんどつかない時代となりました。現金は持っていれば増える財産ではなく、不動産などに投資して、節税しながら、収益を得る、「投資する財産」だと考える必要があります。生前に贈与をしたり、節税対策や快適な生活のために有効に使うことを考えて、実行してこそ、有効な財産と言えるでしょう。

■チェックポイント
  • □現金・預金・有価証券の額を確認しているか
  • □必要以上の現金・預金・有価証券を残していないか

2.預金は税務調査の対象になる・・・名義預金は相続財産

 相続になると、亡くなった人の様々な権利・義務を引き継ぐことになります。財産や負債などをすべて評価をして、基礎控除を超えているようであれば、税務署に相続税の申告書を提出し、納税しなければなりません。相続税の申告書を提出すると、税務署はその内容を確認し、ほぼ1年くらいの間に税務調査が行われることが一般的です。
 以前は主に土地の評についての指摘が多かったのですが、最近では、税務調査は預金調査が中心のことが多いようです。それも、亡くなった人の名義だけでなく、家族名義の預金はほとんどが調査をされ、指摘を受けると言われています。
 なぜかというと、亡くなった人の財産が相続財産ですから、本人名義にしておかずに、配偶者、子ども、孫などの預金口座を作った預金を移しておけば、自分の財産から除外されると思いがちです。
 贈与はあげる人ともらう人の意思確認ができていることが前提ですので、こうして自分が勝手に作った預金は、名義人に渡してもいないし、知らせていないという預金は、贈与は成立しておらず、相続財産だと言われてしまうのです。
 中には本来の家族名義の預金であったり、定期的に贈与をしてきたものだったりとすでに相続財産ではないと説明できることもあるでしょう。その場合は、根拠となる資料を用意し、指摘されても税理士が説明できるようにしておきます。
 しかし多くの場合は、亡くなった人の財産で作った家族名義の預金だという場合が実情のようで、税務署から相続財産の申告漏れだと指摘されても仕方が無いところです。名義が違うから問題ないと安易に考えていると相続財産として指摘され追徴され、中には故意に隠したと重加算税を課税されることもあります。
 このようにあとから指摘をされないように、家族名義の預金や貸金庫は事前に確認をし、はじめから相続財産として申告しておくほうが無難ということになります。

 こうしたことから、財産を銀行預金で持つことは、節税できず、方法を間違うと税務調査の対象にもなります。預金で持つことは安心とは言えず、リスクもあると考えなければなりません。これは、株式などの有価証券も同様で、家族名義の株も預金と同様に調査され、指摘されますので、預金で持つことが安心とは言えない時代です。

■チェックポイント
  • □名義預金、名義株はないか?
  • □通帳や印鑑、証書などを自分が保管したままではないか?
  • □預金から送金、引き出した贈与はないか?

3.駐車場では節税にならない・・・建物を建てないと評価は減らない

 多くの土地を所有している資産家にとっては、先祖から相続した土地を売らずに維持していきたいと考えておられる方は多いでしょう。自分の代で減らすわけにはいかないということのようです。かつては土地があるというだけで羨望の目で見られていた土地持ち資産家であったのに、今や土地持ち資産家はうらやましいばかりの存在ではなくなりつつあります。なぜなら、不動産を多く所有しておられる誰もが、申し合わせたように、「固定資産税が大変」と言われる時代になっているからです。
 固定資産税の捻出のためには、土地から収益があがる事業をすることが望ましいのですが、賃貸住宅を建てるには、建築費が必要になりますし、果たして賃貸事業を始めていいのかという迷いもあるでしょうし、なかなか思い切って決断できないこともあるでしょう。
 けれども、特段事業をすることもない空き地であっても、土地を持っているだけで固定資産税はかかるため、「とりあえず、駐車場」にすることで、固定資産税の収入源にしている場合が多いのではないでしょうか。
相続になったときを考えると、貸し駐車場には建物が建っておらず、自用地ですので、更地とおなじ100%評価で、減額の要素はありません。アスファルトや砂利敷きにした貸し駐車場であれば、貸付事業用小規模宅地等の特例を適用することができ、200㎡を限度として、50%の評価減を選択することが可能になります。
 但し、貸し駐車場が「貸付事業」となるには、賃貸契約書を作成して第三者に対して継続的に賃貸をしていること、機械式の立体駐車場やアスファルトなどの構築物が設置されていることが要件となります。使用貸借や著しく低い対価での賃貸や、特例の適用のために一時的に貸付けを行ったような場合等は認められません。判断が難しいのが砂利敷きの駐車場で、特例が認められないこともあるため、注意が必要です。
 他人に貸していれば、駐車場でも相続のときに土地の評価が下がるのではないかと勘違いをしている方もありますが、土地に建物を建てないことには評価が下がりません。駐車場として貸していても、なんら、減額されないため、節税にはならないということです。
 仮に相続になったら納税のために売れるように、駐車場にしてあるという場合、そのまま所有するのは無策と言えます。財産の内容に見合った節税対策を取るためには、駐車場の土地も活用を検討するべきでしょう。

■チェックポイント
  • □貸し駐車場にしている土地はあるか?
  • □アスファルト舗装などの構築物はあるか?

4.余分な土地は持てない時代・・・空き地には税金が負担

 土地神話のある頃、土地は持っていれば値上がりする一番の財産でしたので、土地持ち資産家の財産は、ただ持っているだけで、年々価値が増えていきました。持っているだけで十分な財産だったのです。ところが、いまや、価値が上がることは期待しにくく、まだ下がることも想定されます。目に見える「土地」の実態に変わりがなくても、「評価額」という価値が目減りしていくのです。
 今までは多くの土地を所有することが資産家の証であり、財産でしたが、固定資産税や維持費を考えると、これからは、収益力のある土地が財産であり、収益力がない土地は不良資産となりかねません。数よりも質にこだわって、選別していく時代になりました。余分な土地は持てない時代になったと言えます。
 アベノミクス効果やオリンピック効果が見込まれ、明るい話題や期待感が出てきたとはいえ、また、土地神話が復活するような土地評価の回復になることは望めないようです。
 こうした状況で、すでに資産をかかえる土地持ち資産家にとっては、これからが正念場となることでしょう。
たとえば、空き地がたくさんあるが全部を活用する決断ができない、どの土地も同じ地域に固まってあるため賃貸住宅を建てるほど競合する、固定資産税の支払いに苦慮するなどが重なると、一部を売却して支払いに補填しようとなるのは致し方ないことでしょう。
 生まれ育った地元の土地が負担になる人も増えてきました。仕事の都合で家を離れ、そのまま家庭を持つようになるとなかなか地元には帰れなくなります。そのうち、親が亡くなると、もう帰る理由がなくなり、地元に戻って住むということもないでしょう。相続した家は空き家となり、維持することが負担になることにもなりかねません。
 自分の代であれば、生まれ育った記憶や、その土地で生活していた思い出があれば、思い入れがあり、親が残してくれた実家を残したいと思う気持ちが強いことでしょう。しかし、配偶者や子供にとっては、そうした思い入れはないため、自分の思いとはかなり温度差があることは否めません。こうした不動産を自分が決断して、維持しやすく、負担のない形にしておくことが必要でしょう。

■チェックポイント
  • □利用する予定のない空き地はないか?
  • □維持することが負担に感じる土地はないか?

5.空室だと節税できない・・・満室経営が節税になる

 空き地にアパートやマンションを建ててさえおけば、相続税の節税になると思っている人は多いでしょう。
アパートやマンションが相続税の節税になる理由は、自分の土地に貸家(アパート、マンションなど)を建てている場合は、「貸家建付地」として、更地評価から借地権、借家権などが生じる割合を差し引いて計算し、建物に関しても借家権割合を差し引いた評価をするためです。さらには、貸付事業には、「小規模宅地等の特例」を適用することができ、200㎡まで評価を50%減額することができるのです。
 ところが、こうした「貸家建付地」や「小規模宅地等の特例」の減額が得られるのは、相続になったときに現実に貸し付けられていることを前提とします。
 したがって、空き室や空き家部分には、「貸家建付地」評価や「小規模宅地等の特例」は適用できずに、更地価額としなければなりません。
 建築費の返済も終わっていて、全室が空き家という場合は、更地評価となり、節税効果は全くないのです。全室が空き家でなくても、評価減が得られるのは、貸している部分だけとなり、たとえば、10室のうち入居者があるのが5室、残りの5室が空室となったままのアパートで、いずれ壊すつもりでリフォームもせず、募集もしていなかったと言う場合は、「貸家建付地」は敷地の半分となり、「小規模宅地等の特例」も半分の減額しか得られない計算になります。貸家の形はあっても節税効果は少なくなるということです。
 賃貸住宅には、入退去がつきものですが、相続対策を勧められた頃より家賃相場が下がってしまったことや築年数が経っていくごとに入居者が見つかりにくくなり、空室期間が長くなっていることもあるでしょう。
 建築費のローンがあれば、返済はしなくてはならないため、できるだけ満室にして持ち出しなしに維持したいという意識がありますので、賃貸事業として稼働しているのですが、返済もなくなった頃には、差し迫ったことがないため、空室になっても、リフォームもせずに空室のまま放置している方もあります。
 こうした状態で相続になっても、節税効果が得られません。賃貸住宅が建っているので節税になると思い込んでいる方も多いかもしれませんが、節税するには、満室経営が必要なのです。

■チェックポイント
  • □所有する賃貸住宅は満室になっているか?
  • □リフォームも募集もせずに放置している部屋はないか?

6.借金しなくても節税対策はできる・・・資産組み替えという方法

 土地持ち資産家は、多くの土地や大きな土地を所有されていることでしょうから、なんらかの節税対策をしないと、固定資産税、相続税の負担が大変です。そのため、土地の評価がどんどんあがった平成のはじめの頃には、「借金をしてマンションを建てること」が相続対策だと思われてきました。
 確かに相続税の節税にはなりますが、建築会社と金融機関主導の借入ありきの計画が多かったのです。そのため、賃貸事業の収支バランスはあまり気にせずにスタートしていることがほとんどでした。その後のバブル崩壊で、土地の評価が下がり、家賃の下落も始まり、景気も悪くなったことで空室も増えました。
 こうした状況でも建築費のローン返済額は下がりません。よって、家賃収入が下がって、ローン返済に足りずに、自己資金を持ち出してようやく返済をしてということもありました。こうした苦い経験をした人やその様子を見聞きした人は、「借入は絶対にしたくない」という心境になったようです。
 そうした場合、借入なしに節税対策をすることもできるのです。

 たとえば、土地の一部は売却して、売却代金で建物を建てたり、賃貸マンションを購入したりし、収益を上げられる不動産に組み換えていく方法があります。売却代金を元手にその範囲であらたな建物や賃貸住宅を購入するので、借入は必要ないのです。
 所有している土地のどれもが賃貸住宅に適した立地でないこともあるでしょう。賃貸住宅にするのであれば、最寄り駅からの距離が徒歩10分程度であることが望ましいと言えます。周辺の住環境なども重要になりますが、所有地だけにそうした条件は今から選べません。
 賃貸事業をするのであれば、適地であるかそうでないかを冷静に判断し、適さないとわかれば、その土地を売却して、別の立地で賃貸事業をするようにします。これが資産組み替えです。たとえ、今まではアパートにしていた土地であっても、古くなったり、ローンが終わっている場合は、売却、買い替えることを検討するべきでしょう。

 たとえば、年間収入250万円の古いアパートを1億円で売却し、家賃が10万円の賃貸マンションを4つ購入すると、年間収入は480万円となり、約2倍近い収入が得られるようになり、駅に近く、資産になる不動産に替えられるのです。

■チェックポイント
  • □節税対策が必要でも借入はしたくないと思っているか?
  • □資産組み替えが必要であれば決断できるか?

7.認知になったら対策できない・・・意思確認が不可欠

 財産を持つ人が亡くなった場合は相続となりますので、相続人が手続きをしますが、節税の余地はあまり残されていません。土地の評価を下げることや特例を使って納税を少なくすることくらいになります。
 けれども、生きているうちであれば、いろいろな方法で節税対策を取ることができ、納税も申告も不要にできることもあります。なので、誰しも生前に節税対策を取りたいと思うでしょう。
 ところが、それができないことがあります。理由の一番は、「本人の意思確認」です。贈与するにも、売買するにも、賃貸事業の請負契約や融資の契約をするにも、すべて、本人ま意思がなくてはできないことなのです。
 現在は、超高齢化社会に突入しており、財産を持つ人の年齢もどんどん上がっています。60代から高齢者と言われますが、70代、80代は当たり前、90代の方も普通におられて、100歳以上の方もめずらしくはありません。
 どなたも元気で長生きならいいのですが、体は元気でも意思能力が低下し、「認知症」と診断をされる人も増えてきました。
 財産のことですので、銀行預金の引き出しや不動産の売却など、すべてのことは「本人の意思確認」が原則ですので、「認知症」と診断されたり、その後、財産管理の成年後見人が選任されたとなると、相続人全員の合意がたったとしても、前向きな節税対策はとれないのです。
 「認知症」と診断されてしまった場合でも、自宅の売却などができる場合がありますが、それには家庭裁判所の許可をもらい、「本人の生活費の補填にする」などという名目が必要になります。財産管理は、あくまで財産の保全が目的ですので、節税対策のためということでは認められず、売却代金を保管することになります。

 こうしたことから、生前対策は少しでも早いほうがよいということになります。場合によっては、今すぐに、ということもあるでしょう。まだ先でもいいのでは、と思い巡らしているうちに認知症が進んでしまって間に合わなくなるかもしれません。

■チェックポイント
  • □財産を持つ人親が認知症と診断されているか?
  • □成年後見人をつけているか?

8.もめたら節税できない・・・不動産が相続トラブルのもと

 相続になって遺産分割がうまくいかないというご相談は年々減ることがありません。親子や兄弟姉妹で話し合うことができなくなってしまい、困り果てて来られる方が多く、中には、すでに家庭裁判所の調停や裁判をされていることもあります。
 相続の手続きをするために集まると、最初は言い合いになり、次第に感情的になり、昔のことや余計なことを言い過ぎて、責め合ってしまうと、身内だからこそ一言が許せなくなります。そして、直に話をすることもできなくなり、顔を合わすこともなくなります。
そうなると、身内だからこそ許せない、譲れない、絶対に協力しない、ハンコは押さないという気持ちになります。修復できないほどの険悪な関係となり、互いに妥協できないことで絶縁になるのです。
 財産が多いからもめるのではと思いがちですが、現実には、財産が少ないほうが深刻にもめてしまう傾向にあります。資産家であれば手続きのために専門家がサポートしますので、大変になることは少ないのですが、そうでない場合は、家族で手続きを進めるため、調整役がいません。そのため、もめる相手は、実の兄弟姉妹が圧倒的に多いのです。それも二人、三人と、きょうだいが少ないほど簡単にもめてしまう結果となります。
 遺産分割でもめてしまう要因のひとつに、財産が分けられないことがあります。預貯金、株などの流動資産であれば、1円単位まで分けられますが、不動産が分けにくいということがあるからです。

 たとえば相続人が複数いるのに不動産は1ヶ所という場合があります。親が亡くなったら、空き家になって売却して相続人で等分に分けるというのなら、だれも文句はないところです。しかし、相続人の1人が住んでいて、不動産が自宅だけで預貯金がほとんどないということも多いのです。そうなると、なかなかまとまりません。
 自宅と賃貸物件があっても、1人の相続人が独占したいこともあります。収益がない自宅だけではつまらないので、収益がある共同住宅ももらいたいということです。よって不動産は全部相続するということになり、家を出ている相続人には分けられないとなります。
 相続税の申告時には小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの特例があり、遺産分割協議がまとまれば納税の負担を減らす余地は残されています。特例が活かせるか否かで納税額が大きく変わることもありますので、節税するためには、もめずに遺産分割をすることが必要なのです。

■チェックポイント
  • □遺言により分割が指定されているか?
  • □もめずに遺産分割協議ができるか?

9.遺言作りも配慮が必要・・・公正証書だから安心とも言えない

 遺言書があればもめない相続ができると思いたいところですが、現実には、「遺言書があったことでもめてしまった」ことが多々あります。なぜかというと、遺言の存在を知っていた相続人の一人に偏った内容の遺言書があったからです。
 たとえば、相続になり、同居する長男が亡くなった父親の遺言書を出してきました。遺言書には”長男に全財産を相続させる”と書かれており、他の相続人は遺言書の存在は一切知らされていなかったということです。
 こうした場合、長男以外の相続人は、父親が自分の意思でその遺言書を書いたとは思わず、長男が財産を独り占めしたいために父親に遺言を書かせたとしか思いません。生前には父親から別の分け方を聞いていたり、預貯金はみんなで分けるようにと言われていたような場合はなおさら、長男を疑うようになります。

 また、遺言書には「長男に全財産を相続させる」というような場合、二男や長女など他の相続人の分割の内容の記載がなく、そればかりか、名前なども一切書かれていないことがあります。こうした場合、同じ子供なのになぜ名前もないのかという気持ちになるようです。なおさら、親が書いた遺言ではなく、長男が書かせたと疑う気持ちや怒りを引き出すことになるのです。
自筆遺言書の場合は、「筆跡が違う」と思う相続人も多くあります。親の遺言ではないと納得いかないときには、筆跡鑑定をして裁判で遺言の無効を主張することもあります。
 公正証書遺言でも「父親は認知症で遺言できる状況ではなかった」と指摘されることもあり、ときに遺言の存在が問題になることがあります。
 長男に偏った遺言であれば遺留分減殺請求ができますので、長男に財産の公開を求めることになりますが、預貯金の額を教えず、通帳なども見せないという反応となることはよくある話で、最初から喧嘩腰ということさえあります。こうなると遺言書があったために、かえって悪感情を引き出してしまう結果になりかねません。
 こうした現状から教訓を引き出すのであれば、「遺言書はこっそり作らない」ことが大事だということです。いままでの遺言書は、「こっそり書いて、誰にも見つからないように隠しておく」というイメージでしたが、これではうまくいきません。争いのない相続を用意しようというのであれば、遺言書は相続人全員に作ることや内容をオープンにしておくことが必要です。これができていないとせっかくの遺言書が仇になることもあるのです。

■チェックポイント
  • □遺言書の存在はオープンにされているか?
  • □偏った内容の遺言書になってはいないか?

10.生前対策は不可欠・・・もう資産家は動き出している

 いままで延び延びになっていた相続税についても、2015年から改正されることが決まりました。改正されると課税対象となる方が増え、増税にもなるため、日々、相続への関心が高まっています。
 相続は財産を持つ人だけが考えればよいということでなく、家族にも関わる問題です。よって、夫婦、親子、兄弟姉妹などの親族で、相続の話が普通にできることが望ましいのですが、それができていないために節税できなかったり、もめてしまったりと苦労されるご家庭が多いのです。相続になってからではできないこと、うまくいかないことがありますので、生きているうちに家族のコミニュケーションを取り、適切な対策を取っておくことが必要な時代になったと考えて下さい。
 そうした中、この時期に対策をしたいという方が増えており、毎日のように相談に来られます。また、相続セミナーへの関心が高まっており、夫婦や親子で参加される姿も見受けられるようになりました。

 79歳のAさんご夫婦は、いよいよ対策をしておきたいと空き地を売却、賃貸不動産へと資産組み替えをされました。背中を押したのは73歳の妻と40代の二人の子供です。60代のBさんは次男で兄と弟があり、92歳の父親と89歳の母親も含めて家族全員で家業の今後や父親の相続について話をしました。両親の気持ちを尊重しながら、自宅と家業を残し、子供たちが円満に継承できる方法を決めて、父親の遺言を作りました。
 40代で長女のCBさんも妹と二人で協力、76歳の父親、72歳の母親を説得して節税対策の検討を始めました。不動産が多く、両親に任せても不安があるからです。
 このように、相続というと、いままでは、なんとなくタブー視されていて、話題にもできないようなイメージがありましたが、いまでは、”家族で相続を考えなくてはならない”という認識の人が増えてきています。
 財産を持つ人がひとりで考えていても、進まないことが多く、やはり家族の協力やサポートが不可欠です。また、相続を受ける立場から行動を起こす人たちも増えてきました。何もしないと財産が減るばかりか、コミニュケーション不足によって、もめてしまうかもしれないからです。
 いまから、動き出すことで、円満でムリや無駄のない相続を用意することはできるのです。

■チェックポイント
  • □相続対策をしようと考えているか?
  • □家族の理解は得られるか?
大増税時代がやってきた